日本映画の金字塔「犬神家の一族」はなぜ面白いのか!?

こんにちは、たまこんにゃくです。

あなたはミステリー小説といえば何を思い浮かべるでしょうか。

数ある作品の中でも私が特に好きなのは金田一耕助シリーズだったりします。
三大名探偵の一人ですね。

まぁ最近だと孫の金田一一の方しか知らないって人もいるでしょうね。
てか孫も37歳になっちゃいましたね(笑)

ちなみに三大名探偵というのは以下の通りです。

江戸川乱歩:明智小五郎シリーズ
横溝正史:金田一耕助シリーズ
高木彬光:神津恭介シリーズ

これらの作品はミステリー小説を語る上で欠かせない存在で、フィクションであるにもかかわらず実在の人物以上に知名度が高いです。

ではその中の金田一耕助のシリーズといえば何を思い浮かべるでしょうか。

特に映像化されている回数が多いのが「八つ墓村」と今回紹介する「犬神家の一族」です。
映像化された中でも特に1976年の石坂浩二主演の作品は「日本映画の金字塔」と呼ばれており、後世の作品に影響を与えただけでなくパロディも沢山作られました。

映画のワンシーンである湖から両足が突き出たシーンは、作品を知らない人でも一度は見たことがあるのではないかと思います。

そんな金田一耕助の役は石坂浩二の他にも古谷一行や中井貴一といった名だたる俳優が演じています。
2004年は稲垣吾郎が演じ、2018年にはNEWSの加藤シゲアキが演じることが決定しています。

そんな誰もが知っている作品。
もっと言えば犯人ですら多くの人が知っているのにも関わらずこれほどまで何度も見たいと思うのはなぜでしょうか。

その魅力を紐解いていきたいと思います。

 

物語の概要

映像作品では時代背景を放映当時に合わせた設定にしているものもありますが、原作での時代背景は昭和2×年2月(映画だと昭和22年)です。

戦争が終わった1945年が昭和20年なので、原作に準拠すると戦後数年後というのが正しい表現なのかもしれません。物語に登場するスケキヨは復員兵(戦後に帰郷してきた兵士)なのも、原作が掲載された当時(1950~51年)の時代背景に合わせています。

今だとあまり聞きなれない言葉でしょうけどね。

物語は信州財界の大物である犬神佐兵衛(いぬがみさへえ)が、那須湖畔の本宅で莫大な遺産を残して他界したところから始まります。

遺産の分与を記した遺言状は犬神家の顧問弁護士である古館恭三(ふるだてきょうぞう)に預けられており、血縁が全て揃った際又は佐兵衛の一周忌に開封されることになっていました。

佐兵衛は生涯正妻を取らず、母親違いの娘が三人(松子、竹子、梅子)がいました。
この三人は表向きこそ取り繕ってはいますが、裏では確執があり仲がいいとは決していえない状態でした。

またその三人にはそれぞれ息子が一人ずつおり、長女の松子の佐清(すけきよ)は戦地に赴いているため遺言状を開封できず仕舞いでした。

それから8カ月後の10月、弁護士の古舘の法律事務所に勤務する若林豊一郎(わかばやしとよいちろう)からの依頼で金田一耕助が那須湖畔を訪れます。

若林が依頼を出したのは、犬神家によからぬことが起こりそうだからというのが理由でした。
予感は当たり、若林は金田一と会う前に何者かに毒殺されてしまいます。

その2週間後に復員した佐清が犬神家に戻ってきました。
しかし戦地で顔に大火傷を負ったため、白いゴムマスクで顔を覆っていました。

なにはともあれこれで犬神家の一族が全て揃ったことになり、佐兵衛の遺言が公開される運びとなります。

そして金田一同席の上で古舘弁護士によって読み上げられる遺言状には、一族に遺恨を残すような驚愕の内容でした。
このことがきっかけで一連の連続殺人へと繋がっていくのです。

 

一族の相関図と遺言状の内容

この物語には多くの人物が絡んでいます。

それを知らなければ、遺言状の内容も頭に入りにくいためまずは相関図をご覧ください。

<出典:https://www49.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/33869.html>

上記の表が非常にわかり易かったため引用させていただきました。

では続いて遺言状の内容です。

1:犬神家の全財産並びに全事業の相続権を意味する犬神家の三種の家宝「斧(よき)・琴(こと)・菊(きく)」は次の条件の下に野々宮珠世(ののみやたまよ)に譲られるものとする。

2:ただし野々宮珠世はその配偶者を犬神佐兵衛の三人の孫(佐清、佐武、佐智)の中より選ぶこと。その選択は珠世の自由になるも、もし珠世が三人のうちの何人とも結婚することを承知せず、他に配偶者を選ぶ場合は相続権を失うものとする。

3:三人が三人とも珠世との結婚を希望せざる場合、或いは死亡する場合は、三人は相続権に関するあらゆる権利を失い、珠世は何人と結婚するも自由とする。

4:もし珠世が相続権を失う場合、佐清、佐武、佐智の順で犬神家の事業を継承し、全財産は5等分しその5分の1ずつを三人に与え、残りの5分の2を青沼菊乃(あおぬまきくの)の一子である青沼静馬(あおぬましずま)に与えるものとする。

5:珠世、佐清、佐武、佐智の4人が死亡せし場合は、犬神家の全財産を青沼静馬が相続することとする。

上記は2006年版の映画のセリフを書きだしたものです。

ここで特徴的なことは、佐兵衛の三人の娘や孫には直接の相続権がないことが挙げられます。
彼らが遺産を手に入れる方法は、孫の三人が珠世と結婚することしかありません。

そしていきなり出てきた青沼静馬なる人物。
三人の孫よりも相続で優遇されていることから、娘や孫たちは嫉妬と怒りを露わにします。

ではなぜ佐兵衛はこんな不公平な遺言状を作成したのでしょうか。
それにはある種のカラクリがありました。

 

なぜ不平等な遺言状を作成したのか?

ここで浮かび上がるのは何故佐兵衛は珠世と静馬を優遇し、三姉妹を争わせるようなことをしたのかということです。

佐兵衛はあえてそれを意図した遺言状を作成したと考えられます。
三姉妹の母親達を佐兵衛は愛していなかったのでしょう。

だからわざと孫たちを争わせて自滅するよう図ったのではないでしょうか。

では珠世と静馬は愛されていたのでしょうか
それに関しては物語中で明確な描写があります。

ここからは作中の核心につくので、ネタバレが嫌な人は控えてください。

まず珠世ですが、彼女は佐兵衛の恩人である野々宮大弐(ののみやだいに)の孫です。
この大弐という人物は那須神社の神官なのですが、実は男色家で佐兵衛とも関係があったのです。

そしてその大弐の妻である晴世は、佐兵衛の生涯でただ一人愛した女性でした。
やがて佐兵衛と晴世は不倫関係になり、一人の子供を産みます。

それが祝子です。
もちろん彼女は野々宮家の子として育てられたのですが、紛れもなく佐兵衛の子なのです。

さらに祝子の子が珠世というわけです。
佐清、佐武、佐智と同様に珠世は佐兵衛の実の孫です。
それも一時的に関係を持った妾の孫ではなく、本当に愛した人の孫となれば財産を継がせたいと考えるのは明白です。

続いて静馬ですが、彼は佐兵衛が50歳を過ぎてから青沼菊乃(あおぬまきくの)という女工に身籠らせた子です。

晴世とは決して結ばれることのない禁断の愛で、妻にすることを諦めていた。
そして妾親子には愛情を持っていなかった佐兵衛が初老を過ぎてやっと妻にしたいと思ったのが菊乃だったのではないでしょうか。

その証拠に家宝である斧・琴・菊を菊乃に与えます。
面白くない三姉妹は菊乃を襲撃し、家宝を取り返し親子に暴行を加えました。

菊乃がその時に言い放った「斧・琴・菊で仕返しをしてやる」というセリフが、事件の凶器に繋がるわけです。

ここからわかるのは、「愛する者の子や孫」と「愛していない者の孫」で明確に区別をつけていたこと。
愛する者の中でも珠世への愛情は別格だったということが遺言状から読み取れるのです。

 

なぜ何度映像化されても面白いのか?

本作はミステリー小説のため、当記事では犯人及び殺された人物は伏せています。

しかし何度も映像化されていることから、誰が犯人か知っている人も多いのではないでしょうか。
それでも見てしまう、不思議なものですね。

やはり興味を引くのはやはりスケキヨのインパクトの高さでしょう。

「白いマスク」と「湖から突き出た足」は後世の色んな作品でもネタにされており、どちらかが出てくるだけですぐに犬神家だとわかるほどの知名度を誇ります。

映像化されるたびに、今回はどうなるんだろうと注目を浴びる部分になると思います。
特殊メイク等技術の進歩を客観的に感じることができますしね。

ビジュアルの面だけでなく、中身は「遺産相続」と「愛憎劇」とこちらもミステリーでは欠かせない要素となっています。

もっというとこの作品がヒットしたことで、ある種ミステリー作品のセオリーとして定着したともいえます。

それもただの愛憎ではありません。
佐兵衛が残した遺言状は、晴世を愛するが故の歪んだ感情がこもった書状でした。

本当は珠世と珠世が愛した佐清に相続させたい。
それが叶わないのであれば、愛情がない三姉妹の一族ではなく静馬に相続させたいという想いがつまった遺言状でした。

この作品の登場人物はみな佐兵衛の被害者なんです。

珠世は愛された故に遺産相続の渦中に巻き込まれ、三姉妹は愛されないがため苦しみ、静馬は利用されたあげく三姉妹の恨みの対象となりました。

私は佐兵衛が一番の加害者だと思っています。

金田一が「全ては偶然の集積」と語っているように、一つでも偶然が起きなければ悲劇に繋がらなかった。
そう考察できる楽しみができるのが、この作品の面白さではないかと私は考えています。

またなぜ「犬神家の一族」が面白いのかを書いた本も出版されているので、紹介しておきます。
ファンの方であれば読んでみることをお勧めします。

 

まとめ

数々の映像化がされている「犬神家の一族」ですが、まだ見たことのない人がいたら是非とも見てほしいと思っています。

個人的に一番出来がいいのが1976年版の映画です。
最近の作品は戦後の風景を無理やり作った感が否めないので、原作の雰囲気がどうしても薄れてしまいます。

ただ映像が古すぎると思う人は2006年版のリメイク映画や、2004年版のテレビドラマ版であれば見易いと思います。
もちろん初めて見るなら2018年版から入ってもいいですね。

ちなみにDSソフトでも発売されていますので、好きな媒体で手に取って金田一シリーズに触れてみてはいかがでしょうか。

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