「侍タイムスリッパー」はなぜヒットしたのか!?下火の時代劇において自主製作映画が成功できた理由とは!?
こんにちは、たまこんにゃくです。
第48回日本アカデミー賞の授賞式が2025年3月14日に行われました。
そこでインディーズ映画としては初となる「侍タイムスリッパー」が最優秀作品賞受賞となりました。
インディーズ映画で躍進した作品というのは2017年公開の「カメラを止めるな!」が有名ですが、あれは奇跡の産物と言われており再現性はないのではと思われていました。
しかし本作がヒットしたことで無名かつ低予算の作品でも成功する可能性があると希望が持てるようになったのも事実です。
実は私もこの作品を公開当時から知っていたわけではなく、2025年5月14日にフジテレビ系列で放送された「奇跡体験!アンビリバボー」のスペシャルで制作秘話を取り上げていたことで興味を持ったのです。
いわば作品当初から愛していたわけではなく、話題になってから知りました。
そしてすぐさま「U-NEXT」でレンタルして視聴して今に至るというわけです。
そんな私がなぜ本作がヒットしたのかを解説していきたいと思います。
2025年7月18日に金曜ロードショーで初地上波放送も決まったので、気になっている方は是非とも当記事をご覧いただきたいです。
「侍タイムスリッパー」とは?
時は幕末、京の夜。
会津藩士高坂新左衛門は暗闇に身を潜めていた。
「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。
名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。
やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。
新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、
守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。
一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ
少しずつ元気を取り戻していく。
やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、
新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくため撮影所の門を叩くのであった。
上記が公式サイトに記載されているあらすじになります。
私も本作のネタバレは控えたいので物語の核心には触れずに紹介していきたいと思います。
まず作品のジャンルとしては時代劇コメディになります。
時代劇はかつてテレビ放送でもよくされていたジャンルになりますが、現在は放送頻度が下がっており歴史好きじゃなければ小難しいと感じるかもしれませんが心配する必要はありません。
せいぜい主人公が会津藩士で敵役が長州藩士ということくらいわかれば大丈夫です。
物語の中で坂本龍馬役の人を本物だと思い、映画撮影の中で切りかかるシーンがありますがこれは主人公が坂本龍馬と敵側にいるからです。
あとは主人公が現代社会にタイムスリップしてきたことによる文化の違いに驚く笑いなど、気楽に楽しめる作品もあります。
そして時代劇というジャンルがなぜ下火になったのかというテーマも組み込まれているのが特徴です。
最後には感動も?という人間ドラマも描かれ、万人にお勧めできるストーリーに出来上がっています。
制作の背景
本作は「拳銃と目玉焼」(2014年)、「ごはん」(2017年)に続く未来映画社の劇場映画第3弾になります。
監督の安田淳一氏は上記前2作のみしか実績はなく、初監督を務めたのは「拳銃と目玉焼」の時です。
「誰かから頼まれるんじゃなくて、自分自身がおもしろいものを撮りたいということで、1回 映画を撮ってみようと思いました」と47歳にして初めて長編映画を発表しました。
そして役所広司演じる侍が現代にタイムスリップするという宝くじのCMをみて本作を思いついたとのことです。
時代劇という膨大な費用のかかる作品を自主制作で作るという無謀なことができたのは、ひとえに周りの人たちの協力でした。
普通に作ったら製作費は2億円はかかると言われていたのが、衣装担当をはじめかつらやメイク・刀・それぞれの分野で時代劇を支えてきたトップレベルの面々が安く提供をしてくれたのです。
さらに監督自身も貯金を切り崩し、愛車まで売却して約2600万円を捻出し制作を行いました。
スタッフも通常100人は必要なところをたった11人でやり遂げました。
演者ですらスタッフに回り制作を支えたのだと言います。
スタッフや役者、協力者の方々が「最後までやり遂げたい」と一丸になって出来上がった作品でした。
なお出来たときの監督の預貯金残高は7000円と少しだったそうです(笑)
「侍タイムスリッパー」はなぜ成功したのか?
本作がテレビ番組に取り上げられるほどのドラマ性があって制作されたことは、今となっては周知の事実となりました。
時代劇という下火になりつつあるジャンルですが、低予算にもかかわらずなぜここまで成功できたのかについて見ていきたいと思います。
単純明快なストーリー
時代劇と言えば時代背景に基づいた重厚なストーリーが展開されるのがお決まりです。
話の流れは初めて見る人向けにもわかりやすくするようされてはいますが、歴史を知っていればより楽しめるのです。
かつては「水戸黄門」や「忠臣蔵」など多くのテレビ番組が放映され、視聴者に愛されてきました。
しかし膨大な製作費や殺陣をを行える役者の減少、テレビ局側のノウハウが失われていくなど総合的な理由で次第に作られなくなりました。
視聴者側にとっても知識がないと楽しめない作品もあることから、一般ウケを考えたらもっとコスパのよいジャンルに流れるのも無理はありません。
対してこの作品は事前知識はいりません。
異世界転生という今はやりのジャンルを生かしつつ、コメディータッチで誰でも入りやすい世界観を構成しているところがウケた一つの理由でしょう。
役者達がスタッフとして広報活動を行ったこと
本作が低予算で作成されたということは度々書いてきたことではありますが、厳しい予算の中でも監督の最後までやり遂げたいという思いに共感して、役者が何役にも渡って仕事をこなしたことが語られています。
主演の山口馬木也氏は当時NHKのオファーももらっていたらしいのですが、断ったとアンビリバボーの番組内で語っていました。
今ではどうしてあんなことをしてしまったのかと思っていたようですが、当時はそれだけ真剣だったのでしょう。
慢性的な人員不足も重なったことで、役者やスタッフがビラ配りまで行っていました。
その効果も重なったことで集客に大きく響きました。
映画を見る人にとっては、実際に映画に出演している役者に会えるとなれば嬉しいものです。
普段なら試写会くらいでしか見ることができないですから。
これもインディーズだからこそできることですね。
観客たちも感想をどんどんSNSにアップしてそれが集客効果に大きく影響しました。
作品を作り上げていくドラマ性が応援に繋がった
映画ファンと一言でいっても種類は細かく分かれており、作品が面白いからという人もいればその映画監督や役者を応援したいからという人もいます。
本作はもちろん優れた作品ではあるものの、映画愛に溢れた監督が作品を作り上げていくための過程が注目を浴びました。
物語を作り上げていく裏でも現実の物語が進行していたと、最初から知っていて映画館に通っていた人は少なかったかもしれません。
しかしSNSで取り上げられるたびにそれが段々と世間に知れていくことになり、他のメディアでも取り上げられるきっかけになりました。
私がこの映画を知ったのもテレビで裏側を取り上げていたからに他なりません。
安田監督がアカデミー賞受賞した際に「がんばっていれば誰かがどこかで見ていてくれる」という言葉に全てが集約されているといって差し支えないでしょう。
まとめ
近年はサブスクが主流になって映画館へ足を運ぶというという習慣が減りつつあります。
私も前に映画館に行ったのはコロナ前だったと記憶しています。
特に見たい映画がない中で適当に面白そうな映画をみるというだけの私でしたが、本作は久しぶりにお金を出してみたいと思った作品でした。
物語の内容だけで言えばもっと名作と呼べる作品もあったと思います。
しかしインディーズ作品でヒットさせるというのは非常に難しく、そこまでして作りたかった熱い思いが込められていることを知ってからはより作品への愛着が湧きました。
時代劇というやや初心者お断りな印象を受けるジャンルですが、内容は単純明快でコメディタッチで描かれているため誰が見てもわかりやすいストーリーとなっています。
もしまだ見ていないという方がいましたら、一度本作を見てみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきありがとうございました。